「救急外来に来られてもしょうがないよ」
残念ながらそういう症状もあります。
その代表がむくみです。ただし、急激なものを除きます
(例外的なものは最後に説明します)。
「なんだか最近むくんできたんです」という類のものです(慢性経過)。
この間夜勤明けの看護師さんが、「顔のむくみに効く」と書いてある謎のドリンクを飲んでいました。むくみって気になりますよねぇ。病院に行けば取ってもらえるかもと思う人がいるかも知れません。
「なんだか最近むくんじゃって。これって何かの病気ですか。」
そういって中年~高齢の方が受診に訪れることがあります。
これは本当にどうしようもありません。私ならお話を一通り聞いて、「救急外来では結論は出ませんので営業時間内に内科を受診しましょう。」と言います。本当にどうしようもないんです。
理由はむくみの原因が多岐にわたり、時間外の検査では原因が突き止められないことです。そして何より、緊急性がありません。女性なら特に顔のむくみや足のむくみが気になると思うんですが、慢性的なむくみではそれでどうこうなるわけではありません。
どうして人の体がむくむのでしょうか。それは血管の外、軟部組織内の水分が増えて溜まってしまうからです。ではどうしてそうなるのでしょうか。原因は色々ですが、例えば血液の循環障害があって静脈の心臓への戻りが悪い、腎臓が悪くて余剰な水分を尿として出せない、血液中の浸透圧が減少して血管外に水分が漏れやすい、リンパの流れが悪い、静脈の弁の異常、体位の影響などがあります。
原因がわからなくとも症状が辛いならそれをとってあげたいものです。腰痛や頭痛に対して鎮痛薬を出すのが良い例でしょう。しかし、むくみに関しての処方は難しい。多くの場合は余剰な水分を出してあげればいいので、利尿薬使われますが。しかし、腎臓が悪くてむくんでいる人に必要なのは透析かもしれません、リンパの流れが悪い人に利尿薬を使ってもあまり効果がないでしょう。静脈弁の異常の場合も同様です。利尿薬は強制的に水分を体から出しますが、その際にミネラルバランスが崩れることがあります(電解質異常)。副作用のほうが問題になるかもしれません。自分でフォローアップするならまだしも、病因(病気のメカニズム)もわからないのに、「わからないけど利尿薬出しておきます。さようなら。」では無責任です。緊急性に乏しいので無理に利尿薬を出さない先生が多いと思います。
「最近顔とか手足がむくむんです。これって何かの病気ですか。」という救急外来受診はお互いのためになしにしていただければと思います。
さて、最後に例外の説明です。緊急性のあるむくみについて説明します。それは急激に全身がむくむ場合です。全身には口や喉、気管などの粘膜面も含みます。空気の通り道である喉や気管の粘膜がむくむと内腔が狭くなります。呼吸しにくくなり最終的に窒息死します。
息がしにくい、口や喉や目の周りなど粘膜も腫れている感じがするといった場合は救急外来を受診してください。救急科か内科があるところがよいです。呼吸困難が生じていれば救急車を呼んでください。
以下に、具体的な病気を紹介します。
1つ目はアナフィラキシーです。つまるところ、急性全身性のアレルギー反応です。ハチに刺されたとか、薬を飲んでから体調がおかしいという場合です。アレルギーでも血管から水分が漏出して体がむくみます。息苦しくなったり、全身の皮膚が赤くなったり、気が遠くなったり、嘔吐や下痢が出現したりしたら救急搬送が必要です。皮膚がむくんでも死にませんが、気道粘膜がむくむと呼吸ができなくて死亡します。これは急ぎの対応が必要です。
2つ目は血管浮腫です。これは難しい疾患です。何らかのきっかけで体の一部がむくみ、重症化する疾患です。私は自分で診断したことがありません。薬剤性、アレルギー性、遺伝性など背景は様々です。これも皮膚が腫れる分にはまだいいのですが、気道粘膜が腫れると窒息しますので、息がしづらいとか苦しいと思ったら救急車で病院へ行ってください。疾患の詳しい説明は以下のリンクを御覧いただきたいのですが、病気が理解できなくても、「息が苦しい」は救急車という対応で良いと思います。
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu07-4.html
https://hae-patients.csl-info.com/cause/ (←初発から診断まで平均で15.6年だとか)
最後の最後に、深部静脈血栓症の紹介をさせてください。これは足の静脈に血の塊ができて、静脈の流れが悪くなり足が腫れるものです。寝たきりの高齢者や足の骨折をした人など歩けない人に好発します。長時間座って足を動かせないだけでもできることがあり、エコノミークラス症候群とも呼ばれます(狭いエコノミークラスの座席に長時間座位でいるために発症する)。これは通常片側の足だけがむくみます。血の塊(血栓)が血流に乗って心臓に帰り、肺動脈に詰まると呼吸困難に陥ります。発症したらあまり歩いてほしくはないですが、じゃあ片足が腫れた人(深部静脈血栓症疑い)は全員救急車かというと難しいですね。「苦しくともなんともないけど片足が腫れて深部静脈血栓症を疑ったので救急車を呼びました」というのは許容されるでしょうか。ちょっとそれはやりすぎな気もします。診断がつかないとなんとも言えないので、早めに内科を受診するしか無いでしょう。ベストは心臓や血管の病気を扱う循環器内科です。
医療者も患者さんの時間とエネルギーが無駄にならないよう、”不急の救急外来受診”は減らしていきたいです。