「こっちだ。」
異倫が通路を進んでいく。藤依もそれについていく。
「安心しろ罠はない。」
「分かっている。君はそういう人間ではないだろ。」
長く直線的な通路は途中左に曲がっておりその先に階段があった。階段を登ると扉があり、扉を開けると眩しい光が差し込んでくる。
光の奥は屋上であった。何も置かれていない殺風景な景色が広がっていた。周りを見渡すと周囲一帯が一望できた。はるか北には地元の名山である白木山がそびえている。
「最後に聞きますが、引く気はないのですね。」屋上中央へ歩きながら藤依が話しかけた。
「藤依、愚問だ。」異倫ぶっきらぼうにつっぱねる。
「わかりました。」
2人が屋上中央に到達した。歩みを止め、向かい合う2人の間に沈黙が流れる。異倫の目を真っ直ぐ見つめ呼吸を整える。藤依の脳裏にはかつての記憶が蘇ってくる。2人は同じ大学に教員として所属していた。お互い教授(プロフェッサー)の地位まで上り詰めた者だ。専門分野は違えど、リスペクトし合っていた。それがなぜ、こうなってしまったのか。
戦いの合図は不要だった。すでに戦闘は始まっている。だが、お互いぴくりとも動かない。相手の隙がないからだ。どのような初手を繰り出してもかわすかいなすかされてしまう。そしてカウンターの痛撃を食らうのが目に見える。達人の一撃をくらえばそれだけで致命傷となる。文字通り一撃必殺なのだ。
達人達の勝敗は、先にミスをしたほうが負ける。
微動だにせぬ2人を太陽がじりじりと照らす。