頸髄損傷では自律神経障害が起こるため血圧が乱高下します。特に問題となるのは徐脈と低血圧を呈する神経原性ショックです。最悪心停止に陥ることもあります。
先日、重症外傷の患者さんが搬送されてきました。10m近く車に跳ね飛ばされた高齢女性でした。来院時脈を触れたものの、最終的には救命できませんでした。CT検査を行うと頭蓋内出血はもちろんのこと、あちこちに骨折がありました。特に目を引いたのは胸椎がぽっきり折れていたことです。
研修医同士が会話をしています。
「神経原性ショックで心臓が止まったんかねぇ。」
「いやいやここは素直に考えて出血生ショックでしょ。出血がかさんだから血圧が維持できなくなって心臓が止まってしまったんだよ。」私が訂正します。
今救急科を回っているのはちょっと生意気な、もとい、勉強家のA君です。
「でも先生、あの高さの胸髄損傷であれば神経原性ショックを併発してもおかしくないですよね。」
「神経原性ショックは基本的に頸髄損傷の場合でしょ。延髄と仙髄から副交感神経が出て、胸髄と腰髄から交感神経が出ていて、頸髄で損傷されると交感神経優位に障害されるから血圧が下がるという機序だったよね。」
「あー、たしかに。そうか。うーん。」
A君は納得してくれたような納得していないような感じです。
そんなリアクションをされて私も迷いが出てきてしまいました。
「胸髄が損傷された場合、そこの交感神経が障害されるので血圧下がるよな。高位胸髄なら間違いなくそうなるはず。でも高位が少し下がった場合は?あれ、頸髄損傷は間違いなく神経原性ショックが起こるけど、胸髄損傷の場合はどうなんだ。高さによるのか?ちょっと自信がなくなってきたぞ。」
研修医に嘘を教えるわけにはいきません。基礎から振り返ることにしました。
下図をご覧下さい。

副交感神経は中脳、橋、延髄、そして仙髄から出ます。そして血管拡張や心拍数低下などの作用があります。
一方、交感神経は胸髄、腰髄から出ます。血管収縮や心拍数増加などの作用があります。
ポイントは以下の通りです。図を見ながら理解してください。
- ポイント1:交感神経はTh1~L2より分岐する。
- ポイント2:中でも心臓に分布する交感神経はTh1~Th4より分岐する。
- ポイント3:Th1より上、例えば頸髄損傷では副交感神経は障害されないが、交感神経は
- 障害される。バランスが崩れ副交感神経優位となるため徐脈と血圧低下を
- 呈する。
- ポイント4:L3以下の損傷では血圧低下は起こらない。
- ポイント5:T1~L2の間の損傷では高位ほど血圧低下が起こりやすく、低位ほど起こりにくいと言える。
一応、脊椎専門の整形外科の先生に確認していただきました。
ただ、胸髄損傷単独というのはほぼありえないので、胸髄損傷による純粋な神経原性ショックは見たことがないそうです。
自分も調べて図を書いてみてすっきりしました。上のような手書きの図を紙に書いて渡したら納得してくれました。研修医の質問にぱっと答えられなかったり、答えは知っていてもその背景にある基礎知識を忘れていたりします。
質問を受けた時に一緒に考えたり、こうしてきちっと調べて返事をしたりするようにしています。自分が成長する時はやっぱり後進の指導をしているときですね。
基礎医学で習った当たり前の内容ですが、今回神経原性ショックのメカニズムを再確認できました。