総論

敗血症は市街地戦の結果

「敗血症と言われる状態です。」

こう説明すると家族はぽかんとします。

ハイケツショウ・・・?

医師にとって敗血症は臨床の場にいる限り避けて通れない話題です。血が敗けると書く敗血症とはいったい何なのか説明したいと思います。

敗血症は近年発見されたものではありません。当然昔から敗血症で亡くなる人はいたわけですが、紀元前430年にヒポクラテスが現代で言うところの敗血症について記述しています。敗血症(sepsis)の語源は、ギリシャ語のseptikosに由来し、これは腐敗を意味する言葉です。あっ、“敗”という字が出てきましたね。

菌自体が悪いのか、菌が出す毒素が悪いのか、菌が血流に乗ることが悪いのか、現代の敗血症の概念が確立するまで敗血症という病気はよくわかっていませんでした。敗血症と菌血症の混同も見られました。

1992年に敗血症は、“感染に引き起こされたSIRSである”とされました。

SIRS(systemic inflammatory response syndrome)とは、全身性炎症反応症候群と言われます。下記のうち、2項目以上満たせばSIRSと診断されます。つまり、全身で強い炎症が起きているということです。

<SIRS基準>

それまでは細菌や毒素が血中に回ることが悪いとされてきたのですが、感染によって惹起された強い炎症それ自体が悪いと、考え方が変わったのが画期的でした。敗血症にはきちんとした定義もなかったので、これが最初の敗血症の定義として、“Sepsis-1”と呼ばれます。感染+SIRSが最初の敗血症の定義でした。

その後、Sepsis-1の問題が露呈してきます。それは、感度は良いが、特異度が低いということ。症例の拾い上げにはよいのですが、敗血症以外のものも多く含まれてしまうのが問題でした。当時は、「そもそもSIRSなんて100mダッシュしたらみんなSIRSじゃん」という揶揄もありました。

そこで、特異度を高めるために色々な項目を加えたSepsis-2が2001年に発表されます。しかしこれも問題がありました。診断のための項目が24項目もあり煩雑だったのです。しかも、それでいて特異度の上昇はわずかというものでした。Sepsis-2も評判はいまいちでした。

次のパラダイムシフトは2016年に起こりました。Sespis-3の登場です。これが現在の敗血症の診断基準になります。

Sepsis-3では敗血症は以下のように定義されます。

「感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり、重篤な臓器障害が引き起こされる状態。」

ポイントは2つです。感染症が存在していること、そして臓器障害が起きていることです。敗血症は古来、菌血症に重きが置かれました。次第に、強い炎症が注目されるようになりました。そして現代、敗血症のポイントは“臓器障害”になっています。

どこの臓器がどの程度障害されていれば敗血症なのでしょうか。実はこれも定義が決まっています。SOFAスコアという多臓器不全の評価スコアがあり、「敗血症は感染もしくは感染の疑いがあり、かつSOFAスコアが2点以上上昇したもの」とされています。

先に、敗血症のポイントは臓器障害だと言いました。

感染症があるという点はいいとして、臓器障害とはどういうことでしょうか。感染症と臓器障害はどのように結びつくのでしょうか。それは戦争における市街地戦を考えるとわかります。

免疫が自軍、細菌やウイルスが敵軍です。敵軍も自分を増やそうと必死ですから人間の体に入って活動を開始します。免疫との戦いで起こる戦火が炎症です。両軍の戦いの場は人体です。実際の戦争も郊外の草原や荒野で戦いが起こる場合もあれば、どちらかが攻め込まれて市街地戦を余儀なくされる場合もあります。感染症では当然人の体の中に攻め込まれたわけですから市街地戦と同様です。そこには、平穏に暮らしている細胞たちがいます。

上図を見てください。市街地戦の様子です。交戦中か否かわかりませんが、いずれにせよ、戦いのステージとなった市街は甚大な被害を受けています。

敗血症とはまさにこういうことです。細菌やウイルスと免疫が激しく戦ったことによって、臓器障害が起きているのです。

Sepsis-1は炎症に注目していました。戦火の大きさが炎症の大きさなので着眼点は良かった。ただ、炎症のスコアリングというか評価が難しかった。Sepsis-3はSOFAスコアで臓器障害を評価しています。炎症自体ではなく、それによって生じた臓器障害に着目しています。

こうして、敗血症を俯瞰してみると少し馴染みが湧くのではないでしょうか。診療する可能性がある先生はガイドラインを一読しておきましょう。感染症治療の柱は抗生剤とドレナージです。輸液、昇圧剤でバイタルサインを立ち上げつつ、細菌やウイルスをたたきましょう。

日本版 敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)ダイジェスト版 [ 一般社団法人日本集中治療医学会  一般社団法人日本救急医学会 日本版 敗血症診療ガイドライン2024特別委員会 ]価格:3300円
(2026/3/19 18:57時点)
感想(0件)
ABOUT ME
qqbouzu
地方で救急科医として働いています。