雑記(医療関連)

心ないんか

自分の子どもには“人情が分かる人”になって欲しいと思います。人の心なんて覗き見ることはできません。しかし、辛い思いをした人をみたら「悲しいよね」とか「辛いよね」と心中を察して寄り添える人になってほしいです。逆に喜んでいる人をみたら、「嬉しいよね、良かったね」と思える人になってほしい。

病院に来るのはケガや病気の人達です。嫌なこと、辛いことがあって病院に来ます。医療スタッフは淡々と仕事をこなす一方で、患者さんの気持ちに寄り添う必要があります。

ただ、医療スタッフもいろいろな人がいます。先日見ていて残念な場面がありました。

病院に来たのは10歳の男の子。体操教室で練習中に着地に失敗して足の骨を折ってしまいました。しかもちょうど大会前だったとか。当然ですが、本人は痛くて怖くて泣いています。コーチや両親も心配そうな顔で付き添っていました。

良かったと言っていいか分かりませんが、その日の外科系当直は整形外科の先生でした。外科系当直は当番制になっているのですが、腹部外科だったり、脳外科だったり、泌尿器科だったりするので、整形外科医がいたのは良かったかも知れません。

整形外科の先生が説明します。

「足の骨が折れています。まずは整復して正しい位置に骨を戻します。手術になるかどうかは整復の結果次第です。良い位置に戻れば手術しなくてもいいかもしれませんが、戻らなければ手術になります。頑張りますがやってみないと分かりません。」

両親もコーチの顔は心配と不安でいっぱいです。患者本人は「痛いよ、痛いよ」と泣いています。

母「整復は痛いですか。」

医師「痛いです。」

母「麻酔で眠らせてとかできないんですか。」

医師「できないです。」

母「えー、そうなんですか。何か薬で痛みを取れないですか。」

整形外科の先生としては両親の承諾というか、「分かりました、お願いします。」という言葉を待っていたようです。しかし、今まさに激痛に耐えている我が子をみて、両親は考え込んでしまいました。

業を煮やしたのか、次に整形外科医が放った言葉に私はびっくりしました。

「じゃあ、整復しないで骨がズレたまま固定しますけど。それでいいですね。」

えっ、と思いました。

母親とコーチは驚いた顔をしています。父親はむっとしたような顔でした。

私は、「おいおい、その言い方はねーだろ」と思いました。体操教室に通う子どもが大会前に骨折です。足の骨が折れたら大人だって悶絶します。両親としては大会も残念ですが、そんなことより、苦しんでいる我が子を見るのが辛いです。

麻酔を使って眠らせるという発想は素人の発想です。麻酔はそんな気軽にできません。ドラマやアニメ(名探偵コナンとか)の影響か、すやすや眠ってしまうイメージがあると思いますが、呼吸停止などのリスクがあり、気安くやるものではないのです。

ただ、両親は医療の素人です。素人らしいかわいい発想と言ってもいいでしょう。それに対してはプロとして、できない理由をしっかり述べるべきでしょう。

ヒトの心がないんかお前は、と思いました。

結局両親は同意し、整復固定することになりました。私がじーっと見ていたらその先生が、「これから子どもの整復するんですけど先生なにか良い知恵ありますか」と言ってきたので、私は鎮静、鎮痛の選択肢を2つほど伝えました。向こうから話しかけてこなければ私から提案するつもりでした。麻酔(鎮静、鎮痛)はリスクがありますが、できなくはありません。麻酔科医がベストですが、救急科医だってできます(我々は呼吸が止まったら気道確保や人工呼吸ができます)。整形外科医はそこができません。それぞれ得意、不得意があるのです。

手術も麻酔も診断も内科も外科も全部できる人はいないんです。要はそれら組み合わせて目の前の患者を救うことが大事なのです。

この先生はそういったマネージメントをすべきでした。

一番許せないないのは「じゃあ、整復しないで骨がズレたまま固定しますけど」などと患者と家族に言ったことです。言っていることは正論かもしれんが、よくもまあそんな言葉が言えるもんだと思います。

小さい病院で、救急科医も麻酔科医もいなくて、本当に鎮静が難しい場合もあるかもしれません。その場合は根気よく説得してやるか、軽く固定して翌朝人員がそろってから本固定するか、設備と人員が揃った施設に紹介にしてしまうか、いくつかアイデアを考えて比較検討するのです。そういったマネージメントをするのです。

それと同時に、「今回は大変でしたね。」とか、「痛いよね、痛みを取るためにちょっとだけ頑張ろうね。」とか寄り添いの言葉をかけてあげるのです。言葉なんて、すぐに出せるわけですし、それで悲しみが多少和らぐこともあるでしょう。

自分の子どももしくは後輩の若手医師にはヒトの心が分かる人になって欲しいと思います。

ABOUT ME
qqbouzu
地方で救急科医として働いています。