総論

伝書鳩

「これじゃあただの伝書鳩だよ。」

研修医の頃、研修医室でそうつぶやいたことがありました。医師となって1年目、まだ何もできません。

看護師「指示簿を直してほしくて」

私「指示簿?」

看護師「◯◯さんの点滴は抜針でいいですか。ロックにしておきますか。」

私「ロック?」

看護師「内服終わっちゃうんですけど継続ですか。」

私「わかりません。」

特に最初の3ヶ月はどうしようもなかったですね。まだ病棟にyear note持ち込んでいましたから。上司に見つかって怒られました。

就職直後、最初は無力感がありますが、特に医師は無力感が強いですね。「先生」と呼ばれる立場であり、様々な指示や判断を求められます。求められる能力と自分の能力のギャップが大きいんですね。

看護師もわかっていますが、研修医の方が声をかけやすいので色々頼み事をしてくるのです。自分では判断できませんからその度に、「はい、確認します。」とか、「伝えておきます。」などと言うわけです。

上級医がすぐ近くにいればいいですが、一人前の医者になると忙しいですからなかなか捕まりません。外来中だったり、病状説明をしていたり、手術中だったり、別の病院にヘルプに行ったり(外勤といいます)、業者さんとお話したり、会議だったり、、、、、。

医師を捕まえるのは大変というのは病院で働く看護師さんならよく分かるはずです。

私は内科の研修からスタートでしたが、上級医が外来中は何をしたらよいかわかりませんでした。研修医室にこもっているのは良くないと思っていました。当時の上司も、「外科医が手術室に入り浸るように、お前はいま内科医として病棟に入り浸れ」と言っていたので、やることがなくてもとりあえず病棟にいました。

これ、今となっては上司の気持ちもわかります。病棟にいると看護師に顔と名前を覚えてもらえます。そして、特にやることがなくても病棟をふらふらしているとなんだかんだ頼まれごと(仕事)が降ってきます。上級医への伝言や御用聞きも研修医の大事な仕事なのです。

ただ、当時の私にそこまでの達観はできず、困った顔をして電子カルテの前に座っていました。year noteを読みながら。

色々聞かれるのですが、答えの99%が「すみません、わかりません。」です。

「まだなんもわかんないのね」と看護師に言われてシュンとしてしまいました。

私にできるのは、とりあえず言われたことをメモしておいて、上級医が来たら伝えるということくらいでした。自分では判断できません。せっかく医者になったのに、実際に病院でやっているのは伝言係。

だんだん嫌になってきました。

「もう、最初から上の先生に聞いてくれよ。」そういう思いも出てきました。そちらのほうが話も早いですし。

これが冒頭の発言につながるわけです。

僕は3つ上の先輩にぼやきました。

「毎日毎日看護師と上の先生との間に入ってメッセンジャーですよ。もうなんか、僕を介さずに直接やり取りしてもらった方が早いんじゃないかって思ってて。僕、間に入る意味ありますかね。」

先輩はとても仕事ができる人でしたが、静かにこう教えてくれました。

「でも、上級医と看護師とのやり取りの線上に自分が入らないと上級医の考え方とか学べないじゃないですか。その線上に入ることでだんだんやり方がわかってくるんで。」

確かにと思いました。伝書鳩をやっているうちに、こういう時はこうするんだとか、こういう時は様子見でいいんだとか、だんだん知識や現場の感覚が身についてきます。看護師と上級医のやり取りの線上に乗るとは下図のようなイメージです。

これが、線からはずれてしまうと以下のイメージです。

ストレスは減ったかもしれませんが、学びの機会はそれ以上に大きく減りました。新人でも微力ながら現場の役に立てることがあります。看護師の御用聞きをして、上級医に伝え、返事を返すだけでも役に立っていたはずです。

研修医という立場はなかなか辛いと思います。看護師も色々な人がいますから、あからさまに舐めた態度を取ってくる人もいます。ただの弱いものいじめなのですが、あなたが一人前の医師になってしまえばおとなしくなります。

見習い期間なのですから、謙虚に伝書鳩として現場の役に立ちましょう。そして、早く知識や現場の感覚を身に着けてできることを増やしていきましょう。

頑張れ、研修医!

ABOUT ME
qqbouzu
地方で救急科医として働いています。