しかおが負傷したのは右足である。立ててはいたが痛みが強かった。
「右足を使った蹴り技はもう打てない。拳打でこの状況を破るしかない。」しかおはそう考えた。しかし、甲冑で身体全体がカバーされ、関節部にも仕込みがあるとなると狙う場所がない。威力の高い蹴り技をくらってもびくともしない相手を拳による打撃で倒すことができるのか。
がちゃ、がちゃ、がちゃ、がちゃ。甲冑の男が近づいてくる。
距離を詰める相手に対ししかおはじりじりと後退する。
「ふふっ、打つ手無しか。逃げ場はないぞ。」
相手の間合いに入らないように一定の距離を保って後退していたしかおだったが、壁に行き当たってしまった。もう後がない。しかし、しかおの表情は戦いを諦めたそれではなかった。
「お前に勝ち目はない。一発で沈めてやろう。」
男が距離を詰め、顔面めがけて拳を突き出してきた。しかおは身を翻して後ろを向き、壁を蹴り上げながらバク宙をしそのまま男を飛び越えて後ろに回り込んだ。予想外の行動に男は反応が一瞬遅れたが、即座に対応し、裏拳で追撃した。しかおはしゃがんで裏拳を躱すと、足をバネのように使って体を持ち上げ、渾身のアッパーカットを放つ。
「解剖学流体術奥義・下顎割り!」
がしゃん。からんからんからん・・・。
甲冑の頭部が飛び、男は後ろに倒れた。甲冑の上からとはいえ、効いたようだ。すぐには起き上がってこない。下顎割は強烈なアッパーでオトガイ部を破壊する技だが、頭部に加わった衝撃により脳震盪も免れない。脳が揺れてしまえば甲冑によるガードも関係ないというわけだ。
「やったか。」しかおは倒れた男をしばらく見ていた。