雑記(医療関連)

死亡確認後に警察が入るケース

救命センターで仕事をしていると残念ながら命を助けられないケースもたくさん経験します。特に、院外心肺停止の場合は救命が難しいです。その場合は救急外来でお看取りをさせていただきます。

仮に命がつながっても、数日して亡くなってしまう場合もあります。最期の瞬間がいつ訪れるのかは医師であっても予測が難しいです。

心停止を含む重症患者を診る救急科はお看取りが多い科かもしれません。

患者さんが病院で亡くなったら通常、死亡診断書を発行してお見送りをします。しかし、患者さんが亡くなってもすぐに死亡診断書が発行されずお見送りもされない場合があります。

それは、死亡確認後に警察の捜査が入るケースです。今日はそのケースについて話します。

なぜ、警察が介入するのでしょうか。それは事件の否定のためです。

人が死亡する原因は様々ですが、癌や脳出血、心筋梗塞などの病気によって病死する場合は“自然死”と扱われます。

一方で、転落したとか、窒息したとか、感電したとか、溺れたとか、病気じゃないのに死に至った場合は“異常死“として扱われます。

異常死体であった場合、医師法第21条に基づき警察に届け出なければなりません。

異状死体とは「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」と定義されます。

噛み砕いて説明します。まず、前提として「人は老衰で亡くなることもあるけど、多くは加齢に伴って病気を発症し、それによって死亡する。それは人として自然な死に方だ。」という考えがあります。これが自然死です。

そして自然死以外の死に方をした死体が異常死体ということです。異状死体の届け出は医師の義務となっています。

これは明治時代からほとんど変わらず踏襲されている規定です。犯罪の発見と公安維持のために制定されたと考えられます。

ですので、餅を喉に詰まらせて救急搬送されて亡くなったとか、車に跳ねられて救急搬送されて亡くなったとか、首吊りをしているところを発見されて救急搬送されたが亡くなったとか、そういったケースはすべて警察に連絡をすることになります。

ご遺族には申し訳ないのですが、警察の捜査介入がある場合、警察に問題なしと判断されるまでお時間をいただきます。時間はまちまちですが、数時間はかかります。

餅による窒息の例で考えてみましょう。例えば75歳のおじいさんが自宅で餅を喉に詰まらせて心停止となりました。救急搬送されましたが、病院で死亡確認となってしまいました。事件ではないのでしょうが、これは自然死ではありません。おじいさんの口に誰かが無理やり餅を詰め込んだのかもしれません。異状死体のため警察に連絡をします。

悲しみに暮れるご家族の前で死亡確認を行います。そして次のような説明をします。

「死亡原因はお餅をのどに詰まらせたことによる窒息だと思います。これば通常の病気による死亡とは異なります。こういった場合、事件性を否定するために警察に連絡をすることになっています。こちらから警察へ連絡をさせてください。警察には来たときの本人の様子などをお話させてください。ご家族にも当時の状況について事情聴取があるかもしれませんが、ご協力をお願いいたします。」

こちらから患者が発生した所轄の警察署へ連絡します。今回の場合は患者さんの自宅住所を管轄する警察署です。

警察に「検視の依頼なのですが・・・。」と言って事情を説明すると警察官が派遣されます。この時、患者さんの氏名、生年月日、発生場所の住所、搬送時間、搬送の経緯、家族情報、死亡確認時間などが聞かれます。

警察が来て改めてお話をします。来院時の身体所見や検査結果、想定される死因について話します。話が終わると警察が家族に搬送に至った経緯や状況を詳しく聞きます。その後ご遺体をよく調べて不審な外傷(ケガ)がないかチェックします。

採血の跡や心臓マッサージによる跡(皮膚変化)があると、「これは医療行為によるものですか」などと聞かれます。

体表の検索が終了すると、現場(このケースでは食事を摂っていた自宅)を見に行きます。争った形跡はないか、第三者が侵入した形跡はないかなど調べます。

現場検証が終了するとまた病院へ戻ってきます。事件性があればさらに詳しい捜査が行われますが、そうなることは稀です。大抵は「不審な外傷もありませんし、現場も争った形跡など不審な点はありませんでした。家族の証言も不審な点はなく矛盾などありません。事件性はないと思われます。」となります。

警察と確認しながら、死亡時刻や死因などを記載して死体検案書を作成します。最後にご遺族に経過を報告し、書類に記載された名前や生年月日に不備がないことを確認してお渡しします。書類不備があると役所に受理してもらえず火葬できないなど問題が生じる可能性があります。

というわけで、自然死と明確に言えない場合は警察介入があり、上記のように色々と調べないといけないのです。ご遺体を詳しく調べたり現場に行ったり時間がかかります。

待合室などでご遺族に長い時間待っていてもらうのは心苦しいのですが、犯罪の見逃しを防ぐために必要な過程になります。すぐにご家族の体を引き渡しできない背景にそういった事情があることをご理解ください。

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qqbouzu
地方で救急科医として働いています。