「いや、勝負はついた。」
「何をほざいている。この程度の攻撃でこの俺が、、、ぐっ。」
武井が苦しみ始めた。
「俺の掌底は確かにお前の胸骨剣状突起をへし折った。そしてへし折られた胸骨剣状突起はお前の心臓を傷つけた。」
「まさか・・・。」
「そのまさかだ。お前は今、心タンポナーデだ。」
心臓は心嚢という線維性の膜で包まれている。この膜と心臓の間には20-50ml程度の心嚢液が生理的に溜まっている。これが出血などで急激に増えることで心臓が拡張できなくなり血圧低下をきたす。武井の心臓はやまじの掌底により傷つき心嚢内で出血していた。出血のような急性の液体貯留が起きた場合、100-150mlの血液でも心タンポナーデを発症するには十分だ。
「心タンポナーデ、だと。」
武井の呼吸は粗く、頸静脈が怒張している。心臓が拡張できないため静脈血が心臓へ戻れないのだ。武井の循環が破綻しようとしていた。
「うぅ。」武井が倒れた。
武井の意識はもうない。循環が破綻し、有効な脳血流が得られないのだ。タンポナーデは針で穿刺するか、心膜開窓術を行うかしかない。短時間で診断し、解除しなければ致死的になる恐ろしい病態だ。武井はまもなく心停止する。
塔1階の激闘はやまじが勝利した。