各論

熱中症の診療

暑いですね。信じられないくらい暑いです。昼間外に出ると、いかに自分が恵まれた環境で仕事をしているのか実感します。屋外労働の方々は本当に過酷な環境で働いていると思います。ありがとうございます。

さて、熱中症です。

これまでは熱痙攣、熱疲労、熱失神、熱中症、熱射病、日射病などいくつかの用語が乱立し、混乱していました。2015年に熱中症診療ガイドラインが出され、それらの用語が熱中症に1本化されたのは実にわかりやすく素晴らしいものでした。2015年のガイドラインでは重症度をⅠ度~Ⅲ度に分け、現場で対応可能か、病院受診したほうが良いか、入院が必要かをざっくり判断できるものになっていました。

2024年にガイドラインが改定されましたが、最大の特徴はⅣ度が加わったことです。Ⅰ度~Ⅲ度がわかりやすくて良かったのにと思いましたが、Ⅳ度が加わった理由があります。今回は熱中症の初期診療を説明しつつ、Ⅳ度が加わった背景についても説明していこうと思います。

<疫学>

地球温暖化の影響により世界各地で熱波が発生しています。本邦でも年々最高気温の記録が更新されており、熱中症の死亡者数は毎年1000人を超える状況が続いています。年齢区分では満65歳以上の高齢者が最も多く、次いで、成人、少年、乳幼児と続きます。発生場所は住居が最も多く、次いで、道路、公衆(屋外)、仕事場の順となっています。

臨床の感覚としても高齢者が自宅から運ばれるケースが多く、たいていクーラーを使用していません。

<診断>

ガイドラインや成書には細かいことが書いてありますが、要するに暑い環境にいたせいで具合が悪くなったものです。高体温の人が運ばれたときに感染症による発熱と区別が難しいことがあります。炎症反応が上がっていたり、画像検査で感染のフォーカスがあったりすれば感染の病態もあるのでしょう。熱中症による高体温であれば体を冷やすことで体温が下がります。しかし、自ら熱を産生する発熱なのであれば、クーリングしても高体温が持続します。そういった経過でも鑑別をすることができます。

*このサイトは初学者向けの記事を書いていますので、感染症+熱中症とか、脱水で脳梗塞を合併した熱中症とか、意識障害先行で動けなくなったことによる熱中症などは扱いません。シンプルに考えます。

<病態>

疾患が何であれ常に病態を考えてください。病態がわかれば治療がわかります。熱中症の病態は、高体温遷延による神経細胞障害と発汗過多による循環血漿量減少です

では治療はどうなるかと言えば、冷却と細胞外液の輸液になるわけです(後述)。

<治療>

冷却と細胞外液の輸液です。まず冷却ですが、どうやって冷却するのが良いと思いますか。2024年のガイドラインではActive CoolingとPassive Coolingという言葉が出てきます。Active Coolingは何らかの方法で積極的に患者の身体を冷却することです。Passive Coolingは冷たい輸液を投与したり患者を涼しい環境に移して休ませたりすることです。

病院に熱中症患者が運ばれてきたらActive Coolingをしましょう。Active Coolingにはどんなものがあるでしょうか。具体的には冷水浸水、蒸散冷却、胃洗浄、膀胱洗浄、局所冷却、血管内体温管理療法、腎代替療法、水冷式体表冷却などがあります。ガイドラインでは特定の冷却法を推奨していません。自施設で可能な冷却法で冷却してください。熱中症で40.5度以上の深部体温が続くと予後が悪化することが知られています。ひとまず深部体温が38度になるまではがんがん冷やしましょう。なぜ38度かというと、36度のような平熱を目指してがんがん冷やすと過冷却のおそれがあるからです。また、38度になるまでの冷却時間後遺症を生じた群で多いことが分かっています。冷却は早いに越したことはありません。血管内冷却カテーテルを用いるなど、正確な深部体温コントロールが可能であれば38度に固執する必要はありません。

輸液については病態を考えれば細胞外液輸液が選ばれると思います。初期輸液量はガイドラインでは設定されていません。現状では一般的な全身管理に準じて尿量0.5ml/hを目標に輸液していくのが良いと思います。

<Ⅳ度熱中症>

さて、どうしてⅣ度熱中症が設定されたのでしょうか。先述の通り、重症度がⅠ~Ⅲ度に分かれていたのは非常にわかりやすく、Ⅰ度は現場対応、Ⅱ度は病院受診(外来対応)、Ⅲ度は入院とざっくりしたイメージがしやすかったです。なぜ、重症のⅢ度の上の最重症を作ったのか。

理由は2つです。

1つ目は、Ⅲ度熱中症の範囲が広かったこと。臓器障害があればⅢ度ですから、JCS2のちょっと日付を間違っちゃった意識障害からJCS300の昏睡まで同じくくりです。腎機能でみても、Crちょいあがり(Cr1.1とか)からCr4.5で無尿状態な人も同じくくりです。ちょっとでも臓器障害があればⅢ度熱中症なので、比較的元気な人からDICやAKI(急性腎障害)などを併発して集中治療が必要な人まで幅広いバリエーションがありました。

2つ目は、海外の重症熱中症の定義と乖離があったこと。国際的な熱中症の診断基準としてBouchama基準があります。それによると重症熱中症は暑熱環境に暴露され、“深部体温40度を超えかつ中枢神経障害が生じたもの”です。

重症熱中症と言ったときに、日本と海外でそこに含まれる患者層がだいぶ違ってきます。

というわけで、最重症であるⅣ度熱中症が作られました。「日本のⅣ度熱中症≒Bouchama基準の重症熱中症」となっています。これにより海外の熱中症の分類との整合性が改善しました。また、Ⅲ度熱中症に含まれる本当の重症グループが明確化されました。この最重症グループを早期に認識し集中治療を開始することは熱中症の予後改善につながるかもしれません。実際、Ⅳ度熱中症に対してActive Coolingを実施しないと死亡率が増加するというデータがあります。Ⅳ度熱中症という最重症群を定義したことで、Active Coolingを含めた集学的治療を介入すべき群が明らかとなりました。

今回のガイドラインはⅣ度熱中症を早期発見するためにqⅣ度なるものも設けられました。qⅣ度は表面温度40度以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8点(もしくはJCS≧100)です。深部体温測定なしにⅣ度熱中症だろうというあたりがつけられます。敗血症のqSOFAと同じ発想ですね。

<まとめ>

暑熱環境に暴露され体調不良を生じたものが熱中症です。診断したら冷却と補液をただちに行いましょう。Ⅳ度熱中症が新設されましたが、行うことは冷却と補液です。

<参考>

日本救急医学会の熱中症ガイドライン2024年版

https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf

書籍で勉強したい方はこちらが良いと思います。少し古いですが。

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qqbouzu
地方で救急科医として働いています。