傷は浅い。だが外頚静脈が傷ついたのだろう。圧迫がもう少し必要だ。
傷は浅いだろう。次は動脈だ。
やまじは武井の手を凝視するが刃物を持っている様子はない。
「ふっ、俺が刃物でも持っているのではないかと思っているのだろう。そんなものはない。そもそも、旧世代が地球で使用していた武器と呼べるようなものはこの世界にはないのだからな。十指無限流・烈夫硬爪拳。冥土の土産に教えてやろう。人体で最も精細巧妙な動きが運動器官は指だ。その指を鍛え上げ、極限まで強化し暗殺拳として昇華させたのがこの拳だ。俺は特殊な訓練の末、常人では考えられない硬度の爪を手に入れた。その硬さはサファイアに匹敵し、鋼鉄でも爪で字を掘ることができる。」
「烈夫硬爪拳だと。伝説には聞いていたがまさか本当に伝承する者がいたとは。サファイアにといえばモース硬度9。人間の爪なんてたかだかモース硬度2.5だぞ。骨でさえモース硬度4から5と言われている。つまり、奴の突きは人体では受けきれない。」
*モース硬度:宝石や鉱物の硬さを数値化したもの。ダイヤモンドが硬度10。
「ダイヤモンドの盾でも持ってくるんだな。切り刻んでやろう。」
「伝説に聞いた烈夫硬爪拳、まさか拝めると思っていなかった。確かにくらえばやばそうだ。だが、当たらなければ意味がないし、俺の攻撃が通らないわけでもない。勝った気でいるようだが、師匠に託された以上、お前は絶対にここで倒す。」
「威勢が良いが、その圧迫止血をした状態で俺と戦うのか。血が止まるまで待ってやるほど俺はお人好しではない。」
こんな浅い切創の止血にそう何分もかかるかよ。やまじが圧迫をやめると、もう概ね止血が完了していた、、、はずだった。
たらーっ。
???