救急外来で見た患者さんが帰宅する際に紹介状を作成することがあります。色々なケースがありますが、例えば以下のような場合です。
・キズを縫合したので経過観察と抜糸をお願いする。
・手の骨折を診断したので、その後の治療をお願いする。
・交通事故後の頚部痛に対して経過観察と鎮痛薬の継続処方をお願いする。
・偶発的に発見された緊急性の低い疾患について精査加療をお願いする。
などです。
基本的に患者さんの自宅に近く、通いやすい病院を紹介することが多いですが、たまに患者さんから「腕の良い先生を紹介してください」と言われます。
患者さんの身に立てば当然のことです。私も腕の良い先生にかかりたいです。手術が必要だったりすればなおさらです。
ところが、この質問は医師側にとってなかなか難しいのです。
救急外来で紹介状を書く場合、基本的に患者さんが行きやすい病院から紹介します。紹介先の先生のことを知らないことが多いです。
確かに知り合いはいます。ホームページなどで調べると部活の先輩や後輩の名前があったり、大学の同級生の名前があったりします。
ところが、その人の「医者としての技量」についてはわかりません。
医師の腕の良し悪しは正直あります。
優しかった先輩が、可愛かった後輩が、仲の良かった同級生が、医師としてどうなのかは全くわからないです。
(もちろん、良い医師になってくれていると信じていますが。)
以前一緒に働いたことがあれば多少はその先生の技量や人柄が分かるかもしれません。しかし、これも限界があります。なぜなら科が違うからです。
科学技術が発展し、高度な医療が可能となりましたが、一方で「専門的すぎて他の科のことがわからない」ということがあります。医学は日進月歩ですので、検査や治療法も変わっていきます。すべての分野をアップデートし続けることはできません。
外科医が外科医の腕を評価することは比較的わかりやすいと思います。
手術の難易度もわかっており、「あの人は手術が早い」とか「合併症が少ない」とか、言いやすいと思います。
ところが、外科医が眼科の先生の手術を見てうまいかどうかわかりません。処方薬が適切なのか、患者指導が必要十分なのかわかりません。
整形外科医の手術がうまいのか、リハビリなど日常生活指導がうまいか、消化器内科医には評価できません。畑が違いすぎるのです。
私は救急科医です。同じ病院の先生なら多少の評判は聞こえてきます。それでも本当の腕前までは評価できません。紹介先の先生となればなおさらわからないです。
そもそも、いい先生とは何でしょうか。人柄、知識、手技の正確さ、判断力、優しさ、礼節、情熱、評価軸は様々です。
患者の話を聞いてすぐに検査して薬を出してくれる先生がいいという人もいます。
一方で、問診と身体診察を重視し、検査と投薬は必要最低限とする先生が実はいい先生かもしれません。
手術が早い先生がいい先生でしょうか。
術中出血が少ない先生や術後疼痛が少ない先生がいい先生かもしれません。
というわけで、心情はよく理解できるのですが、紹介先の先生の良し悪しまではこちらも保証しかねるというか、わからないことが多いのです。(良し悪しと言うか単に合わないというケースも考えられます。)