小説(マンガ化希望)

第2話 残された武器

新しい星に人類が定着し順調に人口が増えていった。かつての地球人の生活とは程遠いが、徐々に町ができ、文化が育っていった。主な娯楽はスポーツで、人々の健康増進や子供の健やかな成長のために盛んに行われた。野球やサッカー、マラソンなど一般的なスポーツもあったが、特に競技人口を伸ばしていたのが格闘技だった。格闘技は心身ともに鍛えることができ、特に道具を必要としない。また護身術としても使えたので老若男女に人気があった。

実はこのころ、人口増加に伴って犯罪も増加していた。一応警察のような組織もあったが、全国で統制が取れておらず増加する犯罪者に対応できていなかった。犯罪に対してはまだ各村が独自に自衛手段をとっていた。犯罪の内容はほとんどが強盗であった。食べるものに困って強盗を行うケースもあったが、一部のごろつきが遊び半分で他人の金品を奪ったり人を傷つけたりするケースもあった。残念なことだが、そういったごろつきが徒党を組んで大小の犯罪組織を作るという動きも見られた。最近は“TOMY(トミー)”という犯罪組織が勢力を拡大しており、いくつもの村が襲われていた。トミーの思想は暴力による世界の支配と富の独占だった。構成員は手練れの拳法家が多く素人の自衛集団では太刀打ちできなかった。中には現代科学でも説明できないような魔法のような術を使用する者もいた。

新しい人類の生活には良くも悪くも重火器が存在しなかった。それは人類が自戒と反省を込めて地球に封印し置き去りにした技術だからだ。この星の科学は医学に特化している。そのため自衛の手段は村の周りに策をめぐらせるとか、訓練を受けた自衛団を作り、巡回させるといった程度の者だった。銃や爆弾がない世の中、それを人類は望んだのだ。争うことばかりで、その結果滅亡しかけた人類は武器を製造しないことを誓った。しかし、武器がなければ争いは起こらないという単純な話ではなかった。暴走してしまった力を抑止するものがない。突きつけられた現実は酷なものだった。

人類は争うことから逃れられないのか。希望をもって新しい星で暮らし始めた人々であったが、平和を求めると平和を実現するために争いが生じるという苦しい矛盾に悩まされていた。仲間を、家族を守るために最後は戦わなくてはいけない。武器のない暮らしを得た人類だが、再度武器を持たなくてはいけない状況になってきていた。

この星に武器などない。製造する知識も技術もおいてきたのだから。しかし人類には残されている唯一の武器があった。

人類に残された武器、それは己の肉体だった。

ABOUT ME
qqbouzu
地方で救急科医として働いています。