救急外来で研修医からよく聞かれる質問です。「単純CTで十分だよ。」とか「とりあえず単純で撮ろう。」といった会話がなされます。「造影CTが撮りたいけど腎機能次第かなぁ」という時もあります。基準があるわけではなく、研修医はいまひとつわかりません。
救急外来に限らず、医療の現場で行われる判断は単純ではありません。こういう時は全例造影CTで、こうだったら単純CTだけ、というような判断はできません。ただ、なんのために造影剤を使うのかを考えると少し思考の整理ができます。
造影CTは造影剤を静脈投与しながら撮影するCT検査です。造影剤とは画像にコントラストをつけ、読影の情報量を格段にアップさせます。タイミングをずらして何度か撮影することで、臓器や血管の染まり方をみることができます。これをダイナミックCTと呼ぶのでした。
アナフィラキシーや腎機能障害のリスクがあり、嘔気などの副作用もある造影剤。同意書も取らなくてはいけないのでひと手間かかります。なぜ造影CTを撮影するのでしょうか。造影剤を使用すると何がわかるのでしょうか。
1.血管内病変
血管内には血液が満ちています。血栓と血液はほぼ等吸収のためコントラストがつきません。したがって、単純CTではほぼ認識ができません(急性期血栓はややhighに映ってわかることがあります)。血管内の膜に異常がある場合も同様です。したがって、急性大動脈解離や肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症といった疾患を疑う時は造影CTを選択します。
2.腫瘍性病変/臓器血流
良性、悪性に関わらず腫瘍の鑑別が難しいケースがあります。単純CTで腫瘍が見つかってもそれが何者であるかわからないという状態です。実は膿瘍だったということもあります。造影剤で腫瘍を染めることで輪郭や大きさが詳しくわかります。ダイナミックCTを撮影すれば染まり方の特徴で診断がつくことがあります。例えば肝腫瘍のケースです。肝細胞癌は早期相で濃染、後期相でwash outされるのが特徴でした。一方、肝血管腫は早期相から後期相にかけて辺縁からじわじわ造影剤が入っていくのが特徴でした。腫瘍性病変があった場合、その精査のために造影CTを選択します。また、絞扼性腸閉塞、NOMI、外傷性腸管損傷の場合など、臓器の血流を評価したい場合は造影を撮影します。
3.尿路病変
造影剤は静脈内に投与された後、短時間で腎から排泄されます。すなわち、造影剤は尿路内を通って排泄されます。したがって、造影剤が排泄されているタイミングでCTを撮影すると尿路走行や結石/腫瘍の位置、他臓器との位置関係などが明確になります。尿路の病変を評価するために造影CTが行われることがあります。
4.出血病変
造影剤は血管内に注入された後腎臓から排泄されます。しかし、どこかの血管が破綻していればそこから造影剤が漏れるため出血箇所がわかります。血管外漏出像(extravasation)です。ダイナミックCTでは動脈相や静脈相を撮影することで、動脈性出血なのか静脈性出血なのか判断することもできます。動脈性出血であれば経カテーテル的動脈塞栓術も考慮されます。術後出血や外傷で出血箇所および性状(動脈性か)を知りたい場合造影CTが行われます。
いかがだったでしょうか。何の疾患を想起していて、何を見たいかをはっきりさせると造影CTの適応がクリアになると思います。今後の診療の一助にしていただけると幸いです。