総論

輸液の進化論

研修医にとって輸液は最初にぶつかる壁かもしれません。医学生のころは輸液の勉強はほとんどしません。しかし現場に出ると様々な輸液に出会います。4月、5月の研修医泣かせなのが看護師から点滴速度を聞かれることです。「速度どれくらいでいきますか?」と聞かれ、私もうろたえました。

輸液は研修医1年目で超えるべき壁です。しっかり勉強しましょう。

研修医向けの本を読むと人体の体液組成についての記述があります。体液は細胞内液と細胞外液に2:1で分かれます。さらに細胞外液は間質液と血漿に3:1で分かれます。と、まぁ、そんな話です。

今回はそういった基礎的な内容ではなく、具体的な輸液の種類について説明します。輸液がどのように作られ、進化してきたかをたどりながら輸液の種類を覚えていきます。名付けて”輸液の進化論”です。

大事なことをまず伝えておきます。この進化の歴史は史実に基づいていません。輸液の種類を覚えるための私のオリジナルストーリーです。輸液を覚えるのに役に立つとは思いますが、その点注意して読んでください。

~~~~~~~~~~~~輸液の進化論~~~~~~~~~~~~~~~

点滴をして血液に直接水分や電解質を補えることを人類は発見しました。しかし、現代ほど科学が発展していなかった頃、最初に開発された輸液はなんだったでしょうか。それは、台所にあるもので作れるものでした。

すなわち、生理食塩水と5%ブドウ糖液です。

次にこの2つを様々な比でブレンドして輸液を作りました。1:1でブレンドしてできたのがソルデム1号液です。ちょうどNaが生理食塩水の半分くらいで、糖も入っていますね。

生理食塩水とブドウ糖液を様々な比でブレンドしつつ、そこにKを追加したものを作りました。こうしてできたのが1号から4号まであるソルデムシリーズです。臨床でよく使うのは1号液と3号液です。1号液は開始液とも呼ばれます。検査結果が今ほどすぐに出ない時代、血管内ボリュームが足らないのか、細胞内脱水なのか、低Naなのか、高Naなのか、腎機能は大丈夫なのか、Kを入れていいのかよくわからない患者にとりあえず使えました。病態がわからない相手に対してとりあえず使いやすかったのです。

3号液は維持液とも呼ばれます。Na,Cl、Kなどの電解質がバランスよく含まれ、2000mlくらい入れると成人に1日に必要な電解質が概ね補えるからです。

まずは1号液、3号液を覚えましょう。2号、4号はほとんど使いませんが、覚え方は単純です。2号がK入りの1号液、4号がKなしの3号液です。

さて、ここまで細胞外液は生理食塩水だけでした。生理食塩水は実は全然生理的ではありません。NaとClしか入っていないのですから。希釈性の代謝性アシドーシスが進行してしまいます。より体液組成に近い細胞外液としてリンゲル液が誕生しました。

リンゲル液も使い続けると希釈性の代謝性アシドーシスが進行します。当時はまだ重炭酸を輸液に付加する技術がありませんでした。そのため、重炭酸のもとになる乳酸が着目され付加されるようになりました。乳酸リンゲル液(ラクテック🄬)の誕生です。乳酸は肝臓で重炭酸になります。肝臓が悪い人では乳酸が蓄積する恐れがあります。乳酸は体に蓄積するとよくないだろうという話になりました。酢酸も代謝されると重炭酸になります。しかも代謝は肝臓だけでなく筋肉でも行われます。こうして酢酸リンゲル液(ソルアセト🄬)が誕生しました。

リンゲル液はさらに進化します。入院中禁食になる方もいるので、糖も加えようということで、糖加乳酸リンゲル液(ラクテックG🄬)や糖加酢酸リンゲル液(ソルアセトD🄬)が誕生しました。こうして、少しですが栄養も考えた輸液ができました。また、この頃科学技術が進歩して重炭酸を直接付加した細胞外液(ビカネイト🄬)も実用化されました。

維持液も同様に進化しました。糖加維持液(ソルデム3A🄬)の誕生です。さらに、維持液は禁食患者によく用いられたので、ほかの栄養も加味しようという動きがありました。ビタミンやアミノ酸を配合した維持液(ビーフリード🄬)の誕生です。

維持液に追いつかれまいと、細胞外液も進化を続けます。次に出たのは周術期用の輸液です。周術期は禁食になります。糖を入れておきたいところですが、手術侵襲で高血糖になるケースもあります。また術前は循環血症量をしっかり維持しておきたいです。糖は加えるものの1%と控えめで、創傷治癒に有利なようにZn を加えた細胞外液が考案されました。これが日本初の周術期輸液(フィジオ140🄬)です。

輸液はもっともっと進化します。禁食患者に糖輸液のみでは栄養がアンバランスです。アミノ酸製剤(アミゼット🄬)や脂肪製剤(イントラリポス🄬)が開発されました。

末梢輸液だけでは1日に必要な栄養素は補うことができず、TPNを行うための製剤も出てきました(エルネオパ🄬)。

こうして台所にある調味料と水から始まった輸液は大きな進化を遂げたのです。

~~~~~~~(完)~~~~~~~~

とまぁ、史実はおいておいて、こんな感じで輸液が進化したって考えてもらえると体系的に覚えやすいのではないかと思います。色々な意見があると思いますが、使えそうだと思ったら使ってください。

私が研修医の時に輸液を勉強をした本を以下に紹介しておきます。対話形式で分かりやすくおすすめです。私の頃は第二版でしたが、現在は三版が出ているようですね。

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qqbouzu
地方で救急科医として働いています。