診察のスタートは問診からです。「今日はどうされましたか。」、「いつからそのような状態なのですか。」など聞いていきます。しかし、それが難しい人がいます。
「ふがふがふが・・・。」
「えっ、なんですか。」
「あほははふへは。」(自分を指さしながら。)
「もしかして、顎が外れた?」
「ふはふふ」(うなずく)
顎関節(がくかんせつ)脱臼ですね。夜間や休日の救急外来にたまに来ます。平日日中に救急外来に来ないのは歯科口腔外科へ行くからなのでしょうか。私の感覚ですが、時間外に来る印象です。
原因は多くの場合大口を開けたからです。あくび、大笑い、歌唱、嘔吐をきっかけにすることが多いです。もともと靭帯がゆるくなる病気の方や筋肉弛緩作用がある薬を内服している方は起こりやすくなります。
診断は患者さん自身がわかっています。口を開けたときに耳の前あたりで「ガコッ」と音がしてそれから口が閉じないのです。口が半開きの状態で歩いてやってきます。
どうしたら良いでしょうか。
これは時間外でも病院に行って整復してもらうしかありません。一般論として脱臼は時間が経てば経つほど整復困難となります。病院を受診してください。(朝方なら病院が開くのを待つので良いと思います。)
ただ、ここからが問題です。何科を受診するのか。
時間外に診療している歯科口腔外科は基本的にありません。まずは近くの病院の外科系医師を頼ることになりますが、正直、対応できるかどうかはその先生の経験値によります。
外科系当直と行っても様々です。脳外科や腹部外科の先生も外科系です。全員が全員、「顎関節脱臼ね、はいはい」とはなりません。脱臼の整復というと整形外科のイメージですが、整形外科医も全員が得意としているわけではないようです(整形外科医は顔面の骨や顎関節を扱わない)。
これは「やったことがある」かどうかが大きいです。
まずは近くの病院に電話をして顎が外れたようだが診てもらえるか聞いてみましょう。対応できるなら受診して戻してもらっておしまいです。戻し方はいくつかありますが、オーソドックスなのは口に両手をつっこんで、下の奥歯を押し下げてぐいっと押します。すると、「カポッ」とはまります。
患者さん自身がわかるので、「あっ、入りました。」と言って笑顔になります。
ところで、その場に顎が外れた自分しかいなかったらどうでしょう。病院に受診の問い合わせなんてできないですよね。筆談必須になりますから。
なので、まずはLINEなどで仲間に助けを求めましょう。いきなり電話するとかえって混乱すると思いますので、まずは顎が外れたことを伝えましょう。
そういったこともできない状況だと厳しいですね。ペンと紙を持って近くの人を頼るか、インターネットで調べて近くの病院に駆け込むか。救急車は最後の手段ですね。本来は救急車を使用する疾患ではないと思い。でも、顎が外れたまま一人ぼっちで途方に暮れる状況ならそういったSOSもやむを得ないかなと思います。