死生観に関するお話です。考え方は人それぞれなので不快な思いをする方もいるかもしれません。今回は私が救急外来でお看取りをした時に考えさせられたことです。
その方は90台後半のおじいちゃんだったと思います。朝家族が起こしに言ったところ返事がなく、息をしていないということで救急要請となりました。年齢も年齢ですから、認知症も進み、自分の身の回りのこともできない方です。私としては型通りの蘇生処置をしつつも、大往生だなと思っていました。
さらに話を聞くと、昨日まではいつもどおりだったとのこと。22時頃就寝したと言います。病歴には胃癌(手術後)、高血圧、脳梗塞(左半身不全麻痺)、慢性心不全などがありました。ここ1ヶ月くらいご飯があまり食べられなくなり元気がなかったそうです。近所のクリニックから栄養剤が処方されていました。全身痩せこけていて、歯もほとんどありません。もう限界が来たのだろうと思われました。
胸骨圧迫(心臓マッサージ)によりすでに肋骨は折れています(胸骨圧迫により肋骨骨折が起こることは珍しくありません。)。これ以上蘇生をしても本人のためにならないだろうと、家族をベッドサイドに入れます。来ていたのは娘さんでした。90台の方の娘ですから70歳くらいです。こちらも高齢者です。
胸骨圧迫をやめると心電図モニターがフラットになってしまいます。そのことを説明しようとしたときです。
「お父さん、ほら、頑張って。頑張ってよ。頑張って!!」
娘が父親に泣すがります。
本人の体が限界を迎えていること、蘇生は困難であることを伝えて納得してもらい、最終的にお看取りとなりました。
私はこの親子の素性や私生活、人生観など知りませんから、この娘さんのことをどうこう言える立場ではありませんが、この「頑張って!」に強い違和感を感じたことを覚えています。
「頑張って、、、?頑張らせるの?」
90歳台後半のよぼよぼの老人に何をどう頑張らせるのか。もう頑張れないでしょう。胃癌の手術を乗り越え、脳梗塞で体の自由がきかず、認知症も進んで周りのこともよくわからず寝たきりの状態です。
もう十分頑張ってきたでしょう。
手術は痛かったと思います。胃癌の術後は食欲も落ちて体重も落ちたでしょう。脳梗塞で半身麻痺が出てしまい不自由だったでしょう。リハビリテーションも大変だったでしょう。老いていく過程で、できないことが増え、気持ちが落ち込んだこともあったでしょう。
病気のことだけではありません。90年以上生きていれば楽しいことだけでなく辛いこともあったでしょう。子育てでは苦労や心配もたくさんされたでしょう。仕事も大変だったでしょう。
大往生です。
「お疲れ様でした!」とか「ありがとう!」じゃだめでしょうか。
死生観は人それぞれですから、この娘さんのことを批判するつもりはありません。
ただ、私は人生の終盤で最期を迎える方には「頑張れ」ではなく、「お疲れ様でした」とか、「ありがとうございました。」とか、「ゆっくり休んでくださいね」という声かけをしてあげたいと思います。
”死”は突然やってきます。普段考えることはないと思いますが、準備をしておかないと必ずうろたえます。
後期高齢者に当てはまるような人やその家族は、もし心臓が止まったらどうしたいか(延命がいいのか、寿命として受け入れるのか)、一度考えておいた方が良いと思います。
色々なケースがあるので一概には言えません。
ただ、年老いた親にもっと頑張ってもらうのか、労いの言葉をかけるのか。
私は後者の立場です。
参考になる書籍を紹介しますので良かったらどうぞ。
「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか (講談社文庫) [ 石飛 幸三 ]価格:660円 (2025/1/28 16:05時点) 感想(11件) |
穏やかな死に医療はいらない [ 萬田 緑平 ]価格:1430円 (2025/1/28 16:06時点) 感想(1件) |