私は救急外来で閉口しました。
「じゃあどうしたら良いんですか」
そう呟く患者さんに気の利く返しができませんでした。
治せる病気ばかりではありません。
防げる病気ばかりではありません。
私がどうこうできる病気ばかりではありません。
医師として働いていて無力感を感じることがあります。今回は最近私が無力感を感じた患者さんのお話です。
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救急外来当番の私のピッチが鳴ります。
救急隊「90歳女性、主訴は耳鳴りです。」
耳鳴り!?
耳鳴りで救急車かぁと思いましたが、救急隊との電話でぼやきはいれません。つべこべいわず受け入れます。
その患者さんは高齢独居の女性でした。長年耳鳴りに悩まされているそうです。辛くてどうしようもなくなくなって救急車を呼んだとのことでした。
耳鳴りの検査?原因は?
私も普段耳鳴りを救急外来で見たことはありません。「きちんとした聴力検査はできないし、頭のCTを撮るくらい?でも頭蓋内病変で耳鳴りって出るの?」
「採血とかはさすがに不要ですか?でもそうしたら問診と診察の後、何をしたらいいでしょう」と研修医も戸惑っています。
「そもそも、長年耳鳴りに悩まされていて辛くて救急車呼んだって、それ、絶対緊急性ないでしょ。」
色々考えましたが、まずは患者さんの訴えを聞くことです。しばらく患者さんのお話を聞くことにしました。その患者さんは長年耳鳴りに悩まされていて、夜の寝付きも悪い状態とのことでした。耳鼻科に通っていますが原因がはっきりせず、脳外科に紹介されましたが、そちらでも耳鳴りの原因は不明だったそうです。来院時は耳鳴り以外の症状はないとのことでした。その後診察も行い、麻痺などの異常がないことを確認しました。
やはり、緊急性はなく、救急外来での原因検索は難しいという結論に達しました。
私はそれをゆっくり、丁寧な言葉でその患者さんに説明しました。
「今日は耳鳴りが辛くて救急車でいらっしゃったと思うのですが、お話を聞いていると慢性的なもので緊急性はないようです。救急外来で詳しい耳の検査はできません。これまで耳鼻科や脳外科で精査はしていますので、救急外来で耳鳴りの原因がわかったり、ましてや治療ができたりということはありません。私は救急科医ですが、耳鳴りについて耳鼻科の先生より詳しいということはありません。なので耳鼻科で治せなかったものがこちらで治せることはありません。残念ですが今日は何か検査や治療できるわけでもないのでこのまま帰宅です。」
なるべく、分かりやすく、ゆっくりお話するようにしました。
その患者さんは俯いてこちらの話を聞いています。一応理解はしてくれたようです。ただ、表情は晴れず、俯いたままでした。
そこで呟いたのが冒頭の言葉です。
「じゃあ、どうしたら良いんですか。」
耳鳴りに効く薬というのはありません。症状も取ってあげられず、解決策も示せず、ただ「かかりつけに相談してください。」というだけ。かかりつけの耳鼻科で原因がわからなかったのに。だから長年症状に悩まされているのに。
無力だなぁと思いました。
命に関わる病気ではありません。緊急性もないし間違いなく軽症の範疇です。
ただし、辛い。
なんだか、無力感を感じた場面でした。