藤依の研究所は町はずれの小高い丘の上にあった。コンクリート造りの味気ない建物で、庭には大きな銀杏の木が立っていた。隣には診療所が併設され、藤依が研究のかたわら診療も行っている。藤依は内科だけでなく外科の素養も持ち、内科診察だけではなく縫合などの外科的処置も行った。多くはないが手術を行うこともあった。藤依の診療所は地域になくてはならない存在になっている。
診療所で手に負えない症例は町にあるグンマー病院へ紹介していた。グンマー病院はその地域の中核病院で、最新の治療設備が整っていた。医学研究も盛んに行われており、世界最先端の治療が行われていた。中でも放射線を使って細胞を活性化し傷を修復する研究が有名で、他地域からも毎日のように医師が見学に来ていた。
藤依診療所は郊外にあるため交通の便が悪かった。また治安もあまりよくなかった。藤依は長年この地域で診療を行っていたが、近年半グレ集団による暴行を受け、外傷で運ばれる人が増えていることに心を痛めていた。
藤依の研究所には2人の助手が働いていた。1人はムールという中年の男性だ。身長は170㎝くらいでずんぐりした体形をしている。藤依の次に年長者でメカに強かった。合理的な性格をしており、面倒なことはメカを使って解決することが多かった。
もう一人はシカジという30歳くらいの男性だった。彼は山奥で暮らすシカ族という部族の末裔だ。本人があまり語ろうとしないため詳細不明だが一族は野党に襲われ一夜にして壊滅したらしい。路上で行き倒れているところを藤依に保護されてから研究所で暮らしている。境遇としてはやまじに似ているかもしれない。家はなく藤依の研究所で暮らしていた。
2人ともやまじを弟のようにかわいがっていた。また、藤依から拳法の手ほどきを受けており強かった。
夕暮れ時、「おーい、やまじ。今日の飯当番お前だろ。飯が炊いてないぞ。」としかじが声をかけた。
「げー、忘れた。いまから急いで炊きます。」やまじが台所に向かったその時、
どんどんどん。
何者かが玄関のドアを叩いた。