がちゃ、がちゃ・・・。
そう簡単に倒せる相手ではなかった。男はゆっくりと立ち上がってくる。
「ふー、揺れた。脳が揺れたぞ。」
しかおは立ち上がった男の顔をみて驚いた。
「お前、目が・・・」
「そのとおり、私はとうの昔に光を失った。」
男の目は両目とも包帯で隠されていた。
「なんだと。それであの身のこなしだというのか。」
しかおは驚愕した。目が見えないというのは最悪のディスアドバンテージだ。人間は五感で得る情報のうち約8割を視覚に頼っている。
「目は見えずともお前の一挙手一投足、この部屋の形、壁との距離、一切が俺にはわかる。」
男の発言が嘘ではないことは明らかである。これまでの戦闘でそれは証明されていた。男の拳は確かに正確にしかおの顔面を狙ってきたし、しかおの攻撃も正確にガードしていた。視覚を封じられているのにどうして相手との距離が掴めるのかがわからなかった。
「こいつ、どうやって感知しているんだ。」
「俺は光を失ったが、異倫様という光を得た。決して潰えることのない光だ。お前に異倫様の素晴らしさがわからないのならここで死んでもらうしかない。」
「異倫とやらの素晴らしさもわからねーし、俺はここで死にもしねーよ。」
2人は再び対峙した。