「この状態は長く持たない。早く有効打を当てなくては。」
呼吸補助筋を用いた呼吸は長くは続かない。それ自体が酸素需要を増やしてしまうのと、筋肉疲労により代償が効かなくなるためである。やまじがこの局面を脱するには一撃必倒の攻撃を当てるしかなかった。
「懐に飛び込んでリスク覚悟で当てに行くしかない。」
やまじが前に出る。武井の突きが確実に頸動脈を狙ってくる。狙いが分かっているためやまじは腕でその突きをかわすことができた。が、それでも武井の手刀は速くぎりぎりである。もう一方の突きが再度首元を襲う。二撃目を避けるためには後方へ移動するしかない。しかし、やまじはここで勝負にでた。武井の鋭い手刀を左手で受け、あえて懐に飛び込んだのである。武井はこの動きを予想しておらず懐に入られた。
「チャンス。解剖学流体術奥義・剣状突起折り」
やまじは渾身の掌底打ちを武井の胸に打ち込んだ。
「ぐはっ。」
武井がダウンする。
やまじはいったん引いて左手の圧迫止血を行う。多量の出血に加え、大呼吸の法を使って活動しているやまじに追撃の余裕はなかった。
武井がゆっくりと立ち上がる。
「効いたぜ。だが、たった一撃当てたぐらいで調子に乗るなよ。」
「そう、たった一発。だが、我が解剖拳は暗殺拳でもある。一撃必殺の俺の掌底は確実にお前の急所を突いた。お前はもう死んだも同然。」
「ふっ、何を言っている。掌底を一発当てた程度で。」