「こいつ、強い。」
やまじは武井との距離を詰めきれずにいた。武井の攻撃は一見して何の変哲もない突きがほとんどだったが、得体のしれない不気味さがあった。まるで何か仕込み武器が隠されているような何かが。そしてその本能とも言える勘はあたっていた。
「どうした、かなり俺の拳を警戒しているようだが。」
「うるさい。」
やまじが武井の攻撃をかわし、下段回し蹴りを放つ。
武井はジャンプしてそれを交わすと瞬時に間合いを詰めてきた。手刀が迷うことなくやまじに向かう。
天倒、眉間、人中、顎、水月、金的、人体の急所は正中線に乗っている。徒手空拳での戦いではいかに有効な一撃を当てられるかが勝敗を分ける。特に顔面は感覚に敏感であり、視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚など感覚器官が集中する場所である。それゆえ、攻撃は必然的に顔面を中心とした正中に集まるのだ。
だが、武井の手刀は恐ろしく速い頸部を狙った突きであった。
やまじが片足を引き半身を取りつつ突きを交わす。突きをぎりぎりで交わしたが鋭い痛みが左頸部に走った。2,3ほど後方に跳ねて相手との距離を取る。
つーっと温かいものが首を伝う。出血だ。
首を切られたっ!こいつ刃物でも隠し持っているのか。脊髄反射のレベルで右手による圧迫止血が開始された。
ぎりぎりかわしたか。頸動脈を狙ったのだがな。武井が不敵な笑みを浮かべる。