小説(マンガ化希望)

第13話 ズーノーシス

やまじの足に大きめの虫が吸い付いている。大きさは1cm程度だろうか。見ればすぐに分かる大きさだ。

「気持ちわるー。」やまじが虫を振り払おうとしたその腕を、藤依が止めた。

「待ってください。不用意に取り払ってはいけない。」これはマダニです。

「マダニ?」

ダニの1種で、特殊な口器により吸血します。むやみに取ろうとすると口器の一部が皮膚内に残ってしまいます。また特殊な菌を保菌していることがあり噛まれるとライム病を発症することがあります。

「えー、そんなぁ。どうしたらいいんですか。」

「まずは速やかに除去することです。早く取り去れば菌は移行しない。」藤依は自身の医療バッグから小さな釘抜きのような道具を取り出した。

「これはツツガムシ除去用器具、ティックツイスターです。これを使えばスムーズにツツガムシを取り除くことができます。」そういうと、藤依はその器具をやまじの足にあて、さっと虫を取り去った。

「私は感染症にかかってしまうのでしょうか。」心配そうにやまじが聞く。

「この地域の虫が保菌虫なのかわかりません。抗生剤を飲んでおきましょう。この場合はテトラサイクリンがいい。」そういって藤依は錠剤をやまじに渡した。

「虫から病気をもらうなんて怖いですね。」としかじが言った。

「虫だけでなく、獣も含め、微生物を保有しています。それは細菌であったりウイルスであったり、寄生虫であったりします。それがなんらかの形で人間の体に入ると感染症を引き起こします。このような感染症を人獣共通感染症、ズーノーシス(zoonosis)と言います。」

森をあること自体がリスクだと認識した2人は、早く森を抜けたくなった。

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qqbouzu
地方で救急科医として働いています。