診断において一番重要なことはなんでしょうか。それは問診、特に現病歴の聴取です。
主訴:意識障害。これで診断がわかりますか。
既往歴:脳梗塞。これで診断がわかりますか。
現病歴:調子に乗って日本酒を一気飲みした後にぶっ倒れて意識がない。
→急性アルコール中毒ですよね。
というように、現病歴をきちんと取ることが正確な診断につながります。もちろん、他の情報が不要であるとか価値がないと言っているわけではありません。主訴や既往歴、家族歴も大事な情報ですのできちんと聴取するようにしてください。
診断学の基本である問診ですが、それが意外と難しいことも承知しています。患者が意識障害で運ばれていれば本人から問診は取れません。最近多いのは、患者も家族も高齢で、記憶が曖昧になっており、話にもまとまりがないケースです。
「いつからこういう状態なんですか」
「少し前から」
「少しってどれくらい。昨日?」
「うーん、もう少し前な気がするけど」
(だからいつなんだ!あなたしかわからないんだから!)
患者やその家族の話を聞くことが重要ですが、救急外来ではあまりゆっくり話していられません。相手側は医療の素人です。そこはプロである我々が誘導しつつ、聞き取る内容に濃淡をつけながら必要な情報を取っていきます。
ところで診断に役立つ良質な現病歴とはどういうものでしょうか。
それは聞いていて疾患を想起することが容易な現病歴です。
「施設入所中の88歳の高齢男性です。3日前から38度の発熱があり、コロナとインフルエンザの検査をしましたが陰性でした。嘱託医から解熱剤と内服の抗生剤が処方されていました。薬を飲めば一時的に熱が下がりますが、発熱は継続していました。2日前から咳と痰が出現し、苦しそうでした。本日痰の増加と血中酸素飽和度低下があり救急要請されました。」
どうですか。
肺炎なんだろうなーって思いませんでしたか。
次です。
「心房細動の既往がある59歳女性です。自宅でテレビを見たところ突然右半身に力が入らなくなりました。その直前まではいつも通り同居の夫とお話もできていたとのことです。呼びかけても返事がなく、左共同偏視があります。けいれんはありません。」
心原性脳梗塞なんだろうなーって思いますよね。
このあと検査をしていくわけですが、だいたいの想像はついています。
カンファレンスにおけるプレゼンもそうです。聞いていてストレスのないプレゼンは、診断に必要最低限な情報がすっきりまとめられています。
忙しい救急外来では時間が限られ、検査先行にしてしまうこともありますが、いつからどのように具合が悪くなったのかよく聞きましょう。