「喉が痛い」、よくある主訴です。夜間の救急外来で内科当直をしていれば何度も遭遇すると思います。問診をして喉をみて、咽頭発赤や扁桃腺腫大などチェックします。特に何も見えず所見に乏しい人もいます。鎮痛薬やトラネキサム酸、PL顆粒あたりを処方して帰宅になることが多いと思います。
咽頭痛の中には5 killer sore throats(5つの致死的咽頭痛)があります。今回はその中の1つである急性喉頭蓋炎についての初期対応を解説します。
初期対応をメインで書くので、あまり診断や疫学については触れませんが簡単に書いておきます。
急性喉頭蓋炎は喉頭蓋の細菌感染です。小児ではHaemophilus influenza type b(Hib)感染が多かったですが、Hibワクチンで激減しました。成人では男性に多く、致死率は4-7%程度です。
臨床像としては咽頭痛に加えて、嚥下困難、呼吸困難、含み声が認められ、tripod positionという独特な姿勢をしています。レントゲン側面像、CT、喉頭ファイバーによって診断をつけます。
さて、ここから初期対応です。急性喉頭蓋炎の何が嫌かというと気道(Airway)のトラブルを起こすことです。逆に言えば、Aトラブルさえ回避できればそう怖いものではありません。
診断したら、挿管の要否を検討しますが、明確な基準はありません。臨床家がそれぞれ判断しているのが現状です。何を考慮して決めているかというと、症状の強さや気道狭窄の所見(strider、tripod position、喉頭蓋の腫大)、悪化の傾向(悪くなってきているか)です。苦しそうとか、ヒューヒュー音がしていて辛そうとか、2時間前より痛みが強くなっているとか、そういう場合は挿管したほうが良いでしょう。
挿管しないに越したことはないでしょうが、挿管しないという選択をすること自体がとても勇気がいることです。参考文献には以下のような記載もあったため参考にして下さい。
「咽頭痛出現より1日以内に呼吸困難が出現した症例のみ気道確保が必要とされ、それに当てはまらない症例でも発症から48時間は重症化に備えてICU管理が望ましい。」
挿管困難になってからでは遅いので、実臨床では“迷ったら挿管”なのでしょう。
急性喉頭蓋炎の挿管は難易度が高いです。十分な準備をして望んでください。McGRATH™はもちろん、輪状甲状靱帯切開も準備もです。また人員も確保してください。挿管において自分より上位者(救急科、麻酔科など)がいれば応援を頼みましょう。応援を呼ぶことは恥ずかしいことではありません。当然のマネジメントであり、急性喉頭蓋炎というのはそういう緊張感のある疾患です。気道のことでトラブったら死にますよ。
挿管できたらとりあえずは安心して大丈夫です。一番厄介なところは乗り越えました。あとは抗生剤を投与して耳鼻科にコンサルトすればよいです。
抗生剤の選択はどうしましょうか。
主な原因菌はHib, Streptococcus pneumonia, Group A streptococcus, Staphylococcus aureusです。
HibはGNR、ほかはGPCです。
Hib狙いならCTRX、レンサ球菌やブドウ球菌にCEZ、PCG、ABPCが選択肢です。
ペニシリンアレルギーならCLDM、LVFXを使用するでしょう。
Hibが減ってきているのでABPCだけでも勝負できそうです。前に一緒に働いていた耳鼻科の先生はSBT/ABPCを使っていました。
血液培養検査は出せるなら出しておきましょう。患部の拭い液も取れたらで良いと思います。挿管前に取って呼吸困難が悪化なんて最低ですからそれは避けたほうがよいでしょう。
投与期間は10日程度とされています。抗生剤投与してから2-3日で喉頭の腫れは引いてきます。
ステロイドですが、「投与しちゃだめってことはないけど、エビデンスに乏しくて、推奨はされていない」といった感じです。私の周りでは投与している先生が多いです。
使用する場合は以下のように投与します。
- デキサメタゾン4-10mgを投与。その後6時間毎に4mg投与。
- メチルプレドニゾロン125mgを1日1回投与。
いずれも症候が改善すれば減量もしくは中止です。
まとめます。
診断したら気管挿管の必要性をまず考えてください。迷ったら挿管です。入院は挿管してもしなくてもICU相当の病棟が良いでしょう。血液培養検査をして抗生剤を投与して耳鼻科にコンサルトしてください。耳鼻科の先生は腫れが引いたところで抜管し、その後悪化がないことを確認して外来フォローに切り替えていくでしょう。
(参考文献)
救命センターにおける急性喉頭蓋炎62例の臨床的検討。岡野雄一ら、日本集中治療医学会雑誌2016; 23: 48-52.
Medical Management of Epiglottitis. Regina A et al. Anesth Prog, 2020; 67: 90-97.