病気や怪我をしたらその領域の専門医に診てもらいたいですか。
当然そうですよね。
私は救急科専門医です。専門医とはその領域において標準的な医療を行える医師です。よく誤解されますが、標準的というのは真ん中らへんとか普通という意味ではなく、現代における最高の医療という意味です。世界標準とか、今の研究結果を踏まえるとこれをやって当たり前というイメージで捉えてください。
「先生の専門科はいつ決まるんですか」と聞かれたことがあります。たしかに、一般の人はわからないですよね。一緒に働いている看護師さんでさえ知らない人が多いのですから。
今回はどうやって医師の専門が決まっていくのか説明します。イメージとしては医者人生の前半について書くことになります。
医学部医学科を卒業すると初期研修医になります。臨床研修病院という研修医を受け入れている病院へ就職して2年間研修を積みます。医学生が医者の卵なら研修医ははまだひよこです。医師国家試験をくぐり抜け、頭にぎっしり知識は詰まっているものの、学生と医師では大きな段差があります。
3月31日までは“学生さん”と呼ばれ、4月1日になったとたんに、“先生”と呼ばれます。当然1日で自分が変わるわけではないのですが、“先生”と呼ばれて、医者になったんだという実感が湧きます。一方で、実力がついていないので、先生と呼ばれたり、指示を出すように言われたりすると不安な気持ちにもなります。
私が最初にとまどったのは輸液でした。
「輸液は何にしますか。」
→えっ、何がありますか?えっと、じゃあ・・・生理食塩水で(不安)。
「速度はどうしますか。」
→そ、速度?うーんと、ぽたぽたで(超不安)。
指示をだすものの、顔に自信のなさがでます。
なんとも頼りない・・・。輸液速度に対して戸惑ったのを今でも覚えています。医学部の教育では輸液速度なんてやらないのです(私が授業を聞いていなかっただけだったらすいません。)。
研修医にと4月、5月は特に辛いです。他の職種もそうかもしれませんが、医師は4月1日から先生と呼ばれ、いきなり指示を出す立場です。感じの悪い看護師だと、あからさまに舐めた態度を取ってきます。
研修医は数カ月ごと(長くしたり短くしたりできます)に科をローテートして色々な勉強をします。これをスーパーローテート方式といいます。これにより働きながら様々な科の研修を受けることができ、幅広い知識を身につけることができます。研修医の2年間はまだ専門とする科が決まっていません。現在の臨床研修制度は2004年に始まりました。その前はストレート方式と言って、医学部を卒業した時点で何科に進むか決めていました。
もっと昔は医学部卒業後に医師国家試験受験資格を得るために現場に出て仕事をしていました。つまり学生でもなく、医師でもない期間がありました。
スーパーローテート方式ではまだ自らが進む科が決まっていません。なんとなく何科になりたいというイメージは多くの研修医が持っていますが、研修をしてみて変わることもあります。
思っていた良い楽しかったとか、逆に思っていたのと違ったとか、自分についた指導医と合わなかったとか、運命的な出会いが進路に影響します。みんな志望科を決める際には大なり小なりのドラマがあったりするものです。
2年間の臨床研修を終えると修了式があります。初期診療研修を終える頃には輸液の種類や速度、簡単な手技についてはだいたいできるようになっています。
医師として3年目、ここから志望科を決めることになります。初期研修後から専門医を撮るまでは後期研修と呼ばれます。一人前の医師がそう簡単にできるわけではなく、次のステージに進むのです。
後期研修の段階で◯◯科医としての研鑽がスタートします。大学や比較的大きな市中病院に専門医になるためのプログラムがあり、そこに応募して採用されれば研修スタートです。ここから先は◯◯科の研修や業務のみを行います。患者さんに接するときも◯◯科の◯◯ですと名乗ります。
後期研修医の時期は長い医者人生の中でも最もつらい時期かもしれません。ここでどれだけ修練を詰めるかどうかで実力に差がつきます。これまでは数カ月間だけ勉強しに来たローテーターだったものが、どっしり腰を据えて研鑽を積むのです。お客様扱いはされません。◯◯科と名乗る以上、その道のプロになるため甘えは許されず、指導も厳しくなります。初期研修医じゃない、でも専門医でもない、実力もまだまだというこの時期が本当に辛い。
私もこの時期が辛かった。日が変わるまで帰れないのが当たり前でした。日が変わる前に帰れると今日はましだと思える世界でした。
ここらへんはどこの病院でどういう指導を受けるかによると思いますが。
人の命や体を預かるわけですから当然だと思います。
後期研修は科によりますが、3-5年間です。後期研修後に専門医試験を受験し、合格すれば晴れて専門医を名乗ることができます。一応、その道のプロの仲間入りをするわけです。
一応というのは、専門医がゴールではないということです。救急科専門医であれば最短で医師6年目で取得できるわけですが、長い医者人生でみれば、6年目なんてまだおしりが青いのです。
むしろ私は専門医を取ってからが本当のスタートだと思っています。専門医をゴールと思っている医師はその先伸びないでしょうね。
医師には生涯勉強が必要です。一人前の医師が完成するまでの道のりは長いのです。